産後の脱毛を経験された方やそのような話をお聞きになったことがある方も多いかと思います。アメリカでの統計において40~50%の女性において産後に抜け毛を経験していると報告があります(American Pregnancy Association参照)。
産後の脱毛については、産後に急変するホルモン量や生活環境の変化によると言われています。
様々なホルモンが髪の毛に作用することが報告されていますが、特に重要なホルモンであるエストロゲンは髪の毛の成長に大きく関わります。エストロゲンは毛母細胞のエストロゲン受容体に働きかけます。エストロゲンの作用で髪の毛の成長期を持続させることで髪の毛の成長を加速させると言われています。
エストロゲンは妊娠中の胎盤形成に働きかけるため妊娠初期から徐々に体内で増え始め、妊娠40週あたりでピークを迎えます。その量として通常の100倍以上になることもあります。しかし、分娩後に急激に体内でつくられる量は減っていき、数日で通常の量に戻ります(検査値早わかりガイド参照)。
このようなホルモンの急激な変化は妊娠、出産そして授乳をする準備へと体に大きな変化を引き起こします。その過程のなかで毛の成長を助けるエストロゲンが非常に高い状態から急な減少により、その結果、産後に脱毛が目立ってしまうことになります。また母乳育児中は母乳を作るためのホルモンであるプロラクチンが分泌されますが、プロラクチンには毛の成長を抑える作用があります。
ホルモンによる体の変化以外にも妊娠期から子育てへと環境が変化し、苦労もつきものです。うまくいかないストレスによってストレスホルモンのコルチゾールの産生が多くなると育毛を妨げてしまうこともありますので、過度のストレスを生まないような環境作りも重要です。
また栄養面でも特に注意が必要です。髪の毛の成長に重要なビタミン、ミネラルやたんぱく質などは、妊娠中もですが授乳中も必要量は増えるので不足しがちです。髪の毛だけでなく体の健康や赤ちゃんの体調も考えた食事を心がけましょう。
記述していったような影響で産後に脱毛がみられることがありますが、体の反応であり基本的には心配する必要はありません。このような認識を持ちストレスをマネージメントすることで脱毛による過度のストレスも和らぐことでしょう。原因も分からずに悩むことは大きなストレスになってしまいます。また産後の脱毛は一時的なものです。多くの方が数ヶ月からおよそ1年で改善が見られてきますので安心しましょう。
また最近、注目されているホルモンのオキシトシン、通称愛情ホルモンは産後、子育てを通して体内に増えていきます。最近オキシトシンには髪の毛の成長を促す作用があると報告されています。つまり赤ちゃんとのスキンシップは実は髪の毛の成長にも良いことになります。またオキシトシンはストレスホルモンであるコルチゾールの抑える働きがあります。さらに男性でもこの効果が示唆されていることから男性の積極的な育児は、家庭だけでなく旦那さんの髪の毛にも良い影響があるでしょう。